人間の歯は通常であれば、乳歯は20本、永久歯は親知らずまで数えると全部で32本あります。しかし、生まれつき歯を持っていない、あるいは永久歯が生まれつき足りない状態を先天性欠如歯といいます。先天性欠如歯は、遺伝的な要因や胎児の発育過程での問題によって引き起こされることがあり、日本小児歯科学会の調査によると10人に1人の確率で発生するといわれる形成異常のひとつです。親知らずが欠如していることが先天性欠如歯の中でよく確認されますが、それ以外の欠如も症例としてあります。
目次
先天性欠如歯の原因
歯胚(しはい)が作られない
歯胚とは、将来どの骨になるか決まった、あごの骨で形成される歯の種のことをいいます。先天性欠如歯は、乳歯や永久歯の元となる歯胚が形成されないことが要因と考えられています。明確な理由は解明されていませんが、遺伝的な要因によって、歯の発育や形成過程に影響を与えることがあります。
母体環境
先天性欠如歯の原因として、母体の病気や薬物の摂取、放射線の曝露などが胎児の歯の形成に影響を与える可能性があります。胎盤が完成し赤ちゃんと母体が臍帯でつながる4~5カ月ごろに、胎児の歯の石灰化が進みます。この期間に母体の栄養状態が悪いと、赤ちゃんの歯が弱くなったり虫歯ができやすい性質になると考えられています。 また、胎児の発育中に起こる事故や外傷も、先天性欠如歯の原因になることがあります。
組織形成の異常
歯の形成過程で異常が生じることによって、先天性欠如歯が発生することがあります。放射線の影響や歯の発育や形成に関与する細胞や組織の発育や分化に異常が生じると、一部の歯の形成が不完全な状態となります。
先天性欠如歯による弊害
咀嚼機能の低下
先天性欠如歯によって欠損している歯がある場合、咀嚼機能が低下する可能性があります。正常な咬み合わせが形成されず、食物を十分に噛むことが困難になります。その結果、食物の消化や栄養の吸収に問題が生じる場合があります。
隣接歯への負担
先天性欠如歯によって欠損している箇所に隣接する歯は、咬合の負担を受ける可能性があります。欠損した歯の役割を代替するために周囲の歯が過度に負担されることで、摩耗や変形、歯茎の炎症などの問題が生じる可能性があります。
咬合(噛み合わせ)が不安定
欠損している歯があることによって、咬合の安定性が低下する可能性があります。歯の配置や噛み合わせの不均衡が生じ、咬合異常や噛み合わせの不安定さが生じることがあります。これにより、食事や発音、顔のバランスに影響を及ぼすことがあります。
虫歯や歯周病のリスク
先天性欠如歯により、歯が欠損することで、隙間ができてしまっている状態になります。 そのため、歯の隙間へ歯石や汚れが付着しやすくなり、歯ブラシが細部まで届かないため、磨き残しが多くなり、歯周病や虫歯のリスクが高まります。
先天性欠如歯の治療
義歯(入れ歯)による補綴
先天性欠如歯の場合、義歯を使用して欠損した歯を補綴することがあります。完全な欠損歯の場合は、部分入れ歯が選択されることがあります。義歯は、個別のケースに合わせて作られ、咀嚼機能の回復や見た目の気になる部分を修復をします。
インプラント
インプラントは、欠損した歯の根部を人工的な歯根に置き換える治療法です。顎骨の中に人工の歯の根部を埋め込むことで、欠損した歯の代替となる人工歯を取り付けることができます。自分の歯のようにしっかりと咀嚼できることが特徴です。インプラントは、周囲の歯に影響を与えず、自然な見た目と咀嚼機能の向上が実現できます。 しかし、発育途中の子どもの場合はインプラント治療ができない可能性があります。インプラントの対象年齢は18歳以上とされており、保険適用外のため自費となることが多いです。
ブリッジ
ブリッジは、欠損した歯の隣の歯に橋渡しのように固定器具を設置し、その間に人工の歯を配置する治療法です。ブリッジは、両隣の健康な歯を削り支柱として利用するため、周囲の歯の形状や健康状態によって実施判断がされます。比較的短期間で治療ができ、欠損した歯の代替となる人工歯を取り付けることで、咀嚼機能の回復が期待できます。